安倍政権の打ちだす政策と多くの主張が符合する団体がある。日本最大級の影響力を持つ保守団体「日本会議」である。
保守系団体の統合による日本会議の誕生
日本会議は1997年(平成9年)「日本を守る国民会議」と「日本を守る会」という二つの保守系団体が統合さ れて生まれた。
- 日本を守る国民会議とは、元最高裁判所長官の石田和外により1978年に設立された「元号法制化国民会議」を前身に持ち、1981年に発足した団体。保守系文化人、保守系団体、旧日本軍関係者を主な構成員とする。
- 日本を守る会とは、1974年に円覚寺貫主の朝比奈宗源が、生長の家創始者の谷口雅春らに呼びかけて作った神道・仏教系宗教団体による団体。
日本会議の会員数は3万5千人~3万8千人と言われ、全47都道府県に支部を持ち、各都道府県内でさらに小規模の地区組織に分かれる。
役員は2015年6月時点で名誉会長三好達(元最高裁判所長官)、顧問石井公一郎(ブリヂスト ンサイクル株式会社元社長)、代表委員石原慎太郎(作家)、横倉義武(日本医師会会長)、事務総長椛島有三(日本協議会会長)など57名。そのうち約20名が宗教関係者で、神社本庁統理、神宮大宮司、神道政治連盟常任顧問、前天台座主、熱田神宮宮司などが役員に就任している。
「誇りある日本」を取り戻す
日本会議の理念を一言で表すと、「美しい日本の再建と誇りある国づくりのために、政策提言と国民運動を推進する」となる。
戦後の占領政策や教育政策によって、日本は古来から培ったよき伝統や文化、一言でいうならば「国柄」を忘れ、誇りを持てる国ではなくなった。もう一度誇れる国日本を取り戻そう、という趣旨である。その柱は以下の3つである(綱領)。
- 歴史、伝統、文化の継承
- 国の栄光と自主独立 豊かで秩序ある社会建設
- 人と自然の調和 共生共栄の世界の実現
これを達成するために、具体的に関心を寄せている課題としては、
- 中国や北朝鮮の軍事的脅威
- 外国人参政権問題
- 竹島・尖閣諸島の領土問題
- 反日的な歴史教科書の問題
- 夫婦別姓を導入する民法改正案、男らしさや女らしさを否定する男女共同参画条例の制定による子供や家庭を巡る環境の悪化
- 教育正常化
- 地域や学校における国旗掲揚・国会斉唱運動
- 公正な情報を行うマスコミを大いに支援、国益をかえりみない偏向報道の是正
- 伝統・文化を軽視する風潮への反対
- 反日・自虐的な歴史観の是正
- 主にアジア各国やブラジルの人々との交流を深め、共生共栄の精神による民間国際親善事業
などがある。2002年に開催された設立5周年記念大会の決議では、
- 国会が速やかに憲法改正の発議に踏み切るよう強く働きかける
- わが国の歴史・伝統を基調とする、教育基本法の全面的改正を求める
- 靖国神社を蔑ろにする国立追悼施設計画を阻止し、首相の靖国神社参拝の定着化を求める
- 崩壊しつつある家族と地域社会の再生をめざし、道徳心涵養(かんよう)の国民運動に取り組む
と謳われている。
成果を上げた教育基本法改正
実際に2006年に教育基本法の改正は行われ、愛国心、道徳心の育成が新たな教育目標に明記された。義務教育課程では教育指導要領に愛国心教育、国旗国歌指導、天皇への理解と敬愛の念、領土領海の学習、防衛の意義と自衛隊の役割、道徳教育の充実、日本神話の学習などが盛り込まれるなど、日本会議が主張してきた内容が多く盛り込まれている。
次の目標は憲法改正
そして次の主たる目標は憲法改正だ。日本会議系のネットワーク団体「美しい日本の憲法をつくる国民の会」では、憲法改正に向けた「憲法改正を実現する1000万人ネットワーク」を展開している。そこではこう述べられている。
私たちの国が世界に誇れる国に生まれ変わるために、憲法改正は喫緊の課題です。日本国憲法は、敗戦後、連合国軍の占領下でGHQに押しつけられた「占領憲法」です。さらに憲法(成文憲法)を持つ世界188ヶ国のうち、日本の憲法は14番目に古く、しかも、一度も改正されていない憲法としては、世界最古の憲法なのです。
そして以下の様に変更することを推進している。
1. 「前文」…美しい日本の文化伝統を明記すること
- 「平和を愛する諸国民の公正に信頼」して委ねるという、他人任せな規定を見直す
- 建国以来2千年の歴史をもつ、わが国の美しい伝統・文化を明記すること、世界平和に積極的に貢献する、国民の決意を表明する
2. 「元首」…国の代表は誰かを明記すること
- 国際社会では、天皇は日本国の元首として扱われているが、国内では、「天皇は単なる象徴にすぎない」とか、「元首は首相だ、国会議長だ」という憲法論議が絶えない。国家元首は一体誰なのか、憲法に明記する必要がある
3. 「9条」…平和条項とともに自衛隊の規定を明記すること
- 9条1項の平和主義を堅持するとともに、9条2項を改正して、自衛隊の国軍としての位置づけを明確にする
4. 「環境」…世界的規模の環境問題に対応する規定を明記すること
- 地球規模の環境破壊が進む中、自然との共存、環境保全は世界的課題であり、環境規定は喫緊の現代的課題
5. 「家族」…国家・社会の基礎となる家族保護の規定を
- 社会の発展、子弟の教育などを支える家族の保護育成は、世界各国でも憲法に規定されている重要な項目
6. 「緊急事態」…大規模災害などに対応できる緊急事態対処の規定を
- 来るべき大災害に対処しうる憲法規定が必要となっている
7. 「96条」…憲法改正へ国民参加のための条件緩和を
- 憲法改正への国民参加を実現するため、憲法改正要件の緩和が求められる
強力な政治とのつながり
日本会議の大きな特徴になっているのが、「国民運動を展開する草の根ネットワーク」を自称しながらも、政治とのパイプがとても太いことである。
日本会議設立と時を同じくして、日本会議国会議員懇談会(以下「懇談会」)が立ち上げられている。2015年には自民党を中心に、超党派で280名が加盟している。これは衆参両院議員(717名)のうち約4割にあたる。
政治と密着する日本会議。中でも現政権との親密度は折り紙付きだろう。懇談会特別顧問は麻生財務大臣、副会長に安倍首相、菅官房長官、石破地方創生担当大臣、中谷防衛大臣が名を連ねる。第二次安倍改造内閣では19名の閣僚のうち15名が、第三次安倍改造内閣では、25名中12名が日本会議所属議員となっている。
保守宗教勢力、旧軍人・軍属、保守文化人等の結集を果たし、強い政治的影響力を発揮してきた日本会議。今夏の参院選前後の改憲に関する動きや、外交・防衛、教育、家庭のあり方などの分野でこれからも政治へ強い影響力を発揮することは間違いない。
図:日本会議の関係組織概略図(筆者作成)
Platnews執筆記事より転載
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